第5章 君の計算を狂わせたい
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相変わらずあたりにはうっすらとした霧がかかっていて一寸先ほどしか見えない。
雰囲気づくりだとしても視界を奪うほど霧を出さなくてもいいだろうに。
おかげで数分前にはぐれた山崎くんの姿は全く見つからない。
私が山崎くんを肝試しに誘ってしまった責任もあるし、何とかしたいんだけど……。
山崎くんとはぐれてしまった今、怖さより心配の方が勝ってしまっている。
「ってうわああああ!!」
ふいに足場がなくなって。
一瞬空中を泳いだ体がゴロゴロと斜面を転がる。
「いっ……たぁ……」
うわあ、最悪。
私……崖から落ちた?
転がった感じからそこまでの高さじゃなかったとは思うけど。
「暗……えーっと、スマホは…………嘘、ない」
手元を探ってみるけど、転んだ拍子に落としてしまったらしい。
しかも足首が痛い。
捻挫までしちゃったかー。
「はぁ……ほんと最悪……」
山崎くんを探してたのに、これじゃあとんだ二次災害だ。
「っていうか灯りもないし、これじゃあ誰にも見つけてもらえないんじゃ……もしかして朝までここ?」
サァっと体温がひいていく。
まじか。
ことの重大さに気づくと途端に悪寒がしてきた。
「誰か近くにいませんかー!! おーい、助けてー!!!」
たすけてぇてぇてぇ……。
エコーがかった声に絶望がつのる。
え、ここお化けとか出ないよね?
さっき長い髪の女の人とかいたけど、あれ原くんが用意したやつだよね?
山崎くんほどではないけど、私だって心霊系得意じゃないのに。
「ーーー〜…」
「ひぃっ……!」
何か声が聞こえる!
お化けじゃないよね?
違うよね!?
次いでガサガサとこちらに近づくような葉っぱのこすれる音。
どくどくと心臓がはやまるなか。
チカっと光に照らされて目を瞑ると、聞き馴染みのある呆れ声が降ってきた。
「おい、そこの馬鹿」
眩い光に細く目を開ける。
「そんなとこで何してんだバーカ、さっさと帰るぞ」
見上げると花宮が立っていた。