第4章 本当の気持ちはどっち?
「まゆりさん!」
手伝いますよ、と続けようとして声を掛けたのだが、俺の言葉は続かなかった。
「えっ……うわっ!」
驚いたように振り返ったまゆりさんが、振り返った反動で手に持っていたジャージを落としてしまったから。
それを拾おうとして体を前のめりにさせると、腕に残ったジャージをさらに落としている。
「すみません! 俺が急に話しかけたから!」
「あ、ううん。私もぼーっと歩いてて」
しゃがんで落としたジャージを拾おうとしたまゆりさんがぎゅっと目を閉じて固まった。
何かに耐えるように見えて俺は思わず大丈夫ですか、と言いかけて口を閉じる。
大丈夫か聞いても、きっといつものように大丈夫って返ってくるだけだと思ったから。
「まゆりさん……」
しかし大丈夫以外の気の利く言葉が俺から出てくるわけでもなく、何と言っていいかわからず黙ってしまう。
「大丈夫……ちょっと眩暈がしただけ」
大丈夫じゃねえよ。
眩暈がするって、疲れが体にでてんじゃん。
しかしまゆりさんはいつもの笑顔を浮かべて再び大丈夫と呟いた。
「心配かけてごめんね、こうやって少し目をつぶってれば大丈夫だから」
「大丈夫じゃねえだろ、それ」
「えっ」
ふいにまゆりさんの腕が引っ張り上げられると、無理に立ち上がらせる奴がいた。
急にこの場に響いた第三者の声は男子高校生の中でも低いものだ。
「花宮……」
「夏の眩暈は軽い熱中症の場合もあるし、医務室行くぞ。ザキ、そこに散らばってるジャージ拾っとけ」
「え、ちょっと、花宮?」
「あ、おい……」
問答無用とばかりにまゆりさんの腕をひっぱっていく花宮の姿がバーベキューの時の二人の姿が重なって、思わず声をかけてしまった。
無言で振り返った花宮はじっと静かに俺の方を見つめる。
その無言の圧に負けて俺は目をそらした。
「あ、いや何でもねえ……」
花宮は何を考えているかわからない所があるが、その読めなさがおっかない時がある。
それに今回ばかりは俺に止める権利もない。
体調悪そうにしていたまゆりさんは、無理をしてでも休ませるべきだった。
「くそっ」
二人がいなくなった後。
胸がじくじくと痛みをあげるのを感じながら、俺は散らばったジャージ達に手を伸ばした。