第4章 本当の気持ちはどっち?
真剣に練習に打ち込んでいた皆には声をかけずにこっそり私は体育館から外に出た。
風を通すために開けっぱなしにしている窓からは、なおも部員の掛け声とボールをつく音が響いている。
体育館から鳴り響く熱気のある音に紛れてジャーという水音が聞こえたのは偶然だったと思う。
音に誘われて体育館の裏手に回ると、そこには蛇口が五つほどならんだ簡易的な水場があり、そこで背の高い茶髪の男の子が水をだしている。
音の正体は彼だったようだ。
彼の手元には銀色の大きな蓋付きの容器が二つ。
ああいうの何ていうんだっけ……ウォータージャグ?
「何してるの?」
「えっ、まゆりさん!? びっくりした、驚かさないでくださいよ」
話しかけると驚いたように茶髪の彼は目を瞬かせる。
彼に限ったことじゃないけど、こうやって近くによると背の高さとガタイの良さがわかる。
彼も確か一年生だったはずだけど、ここで飲み物を作っているってことは試合に出ない組なのだろう。
こんなに見上げるほど背が高くても試合に出れないって、それだけで霧崎第一バスケ部のレベルの高さがうかがえる。
きゅっと蛇口が回されると流れていた水音が止まった。
「すごい量だね、これ全部飲むの?」
容器の中でなみなみと揺れる水はどのくらいの量になるのだろう。
二リットルペットボトル五本分くらいかな?
とにかくすごい量だ。
タイル調の台の上に箱が置いてあった。
箱の表面には青と白の文字で某有名な飲料名がつづられている。
「そうですよ、この暑さだとこまめに水分補給しないと熱中症になっちゃいますから」
「この箱のは?」
「これからこの水の中にこの粉末を入れてやるわけです。そうすると、簡単にスポーツドリンクの出来上がり」
「ほー」
茶髪の彼は箱の中から取り出したレトルトパックのようなものをひらひらと振ると私に手渡してくる。
彼の教えに従ってジャグに粉末を入れていくと、きっちり十袋開けたところでストップがかかった。
袋の中身をすべて入れて、軽くかき混ぜれば完成。
こんなに簡単にスポーツドリンクって作れるんだね。
粉末があるってことさえ知らなかった。