第3章 変革は意図して起こされるもの
情けないことに鼻血がでそうになったので、鼻に手をあてながら花宮をにらみつける。
こうやって無理にでもどこかに力を入れていないと、この雰囲気に飲み込まれそう。
「ふはっ、ずいぶん余裕がなさそうですね?」
そういうあなたはずいぶん楽しそうですね?
わかってる……こうやって甘い言葉はいて、優しく触れて、最後に嘘だよバァカって手のひら返すんだって。
それが花宮の常套手段なんだって。
なのに……。
まるで演技だと言わんばかりの仕草の合間、ふとした拍子に私を見る目が柔らかい気がするのはなぜなのだろう。
触れる手が優しいのは?
それも私をだますための計算?
花宮は私が鼻にあてていた手をどけると再び顔を近づける。
キスに身構えて目を閉じると、少しの間の後、おでこに柔らかい感触。
目を開けると、すぐ近くにある花宮の目元がふわりと緩んだ。
「いじめるのはこのくらいにしておきましょうか。鼻血でも出されたら困りますし」
なぜばれた。
私がさっと再び鼻に手を当てると、花宮はベッドから降りていった。
そしてドアに向かう途中でああと思い出すように振り返る。
「そういうわけなんで、俺ら今日から恋人同士ってことでよろしくお願いします」
言うことはそれだけといった様子で、素っ気なく花宮は部屋から出ていった。
バタリとドアが完全に閉まると、私は「はああ」と脱力した。
胸に手をあてるとまだ自分の心臓がどくどく波打っているのがわかる。
顔のほてりがひかない。
しかしそれらの熱が時間とともに引いていき冷静さを取り戻せば、花宮が本当に言いたかったことは最後の一言だけだったんだなと理解した。
甘いささやきも優しく触れる手もすべて、最後の言葉を私に飲ませるためのものでしかない。
なんで私と付き合っていることにしたかったのかは謎だがその方が花宮にとって都合がよかったのだろう。
さっきまで私に向けられた愛のささやきのすべてが花宮の目的のための計算。
そこに愛なんてない。
頭で考えれば花宮の思惑なんて容易に想像できる。
だけど……触れられた感触を思い出すだけで、私は再び顔に熱が集まりそうになってしまう。
「花宮はずるいな……」
ぽつりと呟いた私の言葉は枕に吸い込まれて消えた。