第3章 変革は意図して起こされるもの
強く引かれる手。
急ぐように進む足。
それは皆の目がなくなってからも緩むことはなかった。
「ねえ、花宮どこまで行くの!? ねえってば!」
大きな背中は何も語らず、けっきょく私は唯一つながれた手に従って歩くしかない。
廊下を歩き、建物の奥へと進み、行きついた先は私に割り当てられた個室だった。
強引に腕を引かれた私はベッドの上に倒れこむ。
ベッドが強く音をたてた。
「いったぁ……」
一体何なのか。
私たちが恋人だなんてどういうことなのか。
一言文句でも言ってやろうと振り返れば、いつの間にか花宮の影が私の体を覆っていて、急に口を塞がれた。
「ん……んむっ」
まるでもてあそぶかのように上下の唇を啄むと、差し込んだ舌をこすり合わせてくる。
その一連の動作だけで腰がくだけそうになるのをこらえてぐっと腕に力を入れた。
花宮の目が私を観察するようにじっと見つめてくる。
こっちが陥落するのを眺めているように感じて心底腹が立った。
「や、めてよ……!」
私が力任せに押し飛ばすと花宮は不機嫌そうに眉を寄せた。
「……なんだよ」
「なんだよ、じゃなくて」
もういい加減にしてほしい。
こうやって勝手にキスして、恋人だと名乗って。
そんな花宮の行動に、毎回どれだけ心がかき乱されるか。
わかってる。
どうせ花宮のことだから、私と恋人関係だということにした方が都合がよくなったんでしょ。
キスをして私を黙らせたいんでしょ。
でもそんな言葉だけの関係でも、私を従わせるためのキスでも、私の心は勝手に反応する。
頭のいい花宮には一生わからないだろうけど。
「私のこと好きでもないくせに」
「好きですよ?」
「……嘘つかないで」
「まさか、僕が嘘ついたことあります?」
花宮は白々しく首を少し傾げた。
仕草のひとつひとつが演技くさくて、何かのショーでも見てる気分になる。
ふいに私の首元を花宮の手が触れる。
「今日は珍しく髪をあげてるんですね」
触れるか触れないかくらいの感触が首を撫で上げる。
背筋をぞわりとしたものが通った。
「かわいいな」
花宮はそっと息をはきだすと目を細めた。
わかってる。
全部花宮の計算だってわかってるのに、頭が沸騰しそう。