第3章 変革は意図して起こされるもの
だから花宮がこんなことを言いだしたことに俺は少し驚いた。
「越智さんは俺の彼女ってことにするか」
古橋が絶望したようにうめき声ともとれるような声をあげた。
「花宮正気か! 嘘だって言ってくれ!」
「嘘じゃねえ、今決めた。越智さんは俺と付き合ってることにする。それで部員がうるさいのも多少はましになんだろ」
「やめてくれ! 花宮、考え直すんだ!」
まじか。
しかしこの決断は花宮らしいとも思えた。
自分の目的のためだったら他人を利用したり、狡猾だと揶揄されるようなこともいとわないのが花宮という男だ。
興味のない女性と付き合うことなんて、花宮にとってはどうということはないのだろう。
古橋除く他の部員もそう思っているのか、今さらこんなことで口出しなどしない。
止めるどころか原にいたっては笑ってるしな。
面白くなってきたとか思ってんだろ、どうせ。
いつもだったら口出しはしない。
めんどくせえから。
でも……
「花宮まじでやんのかよ、せめてまゆりさんの合意はもらってからやるよな?」
つい口をはさんだのはまゆりさんに同情したからなのか。
だってあんな風に俺らのこと応援してくれてるのに花宮みたいなやつに騙されるなんてかわいそうだろ。
それに万が一にも花宮のことが好きになっちまったらまゆりさん、絶対に泣くはめになるだろうし。
原が意外そうに声をあげた。
「ザキが口はさむなんて珍しいじゃん」
「いや、だってかわいそうだろ。まゆりさん良い人なのに花宮に騙されるなんてさ」
「まあそもそも花宮に出会った時点で不幸は決まったようなもんだからね」
「おい、それどういう意味だ」
原の軽口に花宮は言葉を続けようとしたが、けっきょくため息をはくに留まる。
「とにかくそういうことだから、これから話合わせろよお前ら」
そう言った花宮の表情はどこか楽しげに揺れた。
花宮の言葉でこの話題は打ち切りとなったが、俺の心には何か言葉にできないようなもやっとしたものが残るのだった。