第8章 夫婦
「あなたー」
「なんだい?」
リビングで黒崎を呼ぶ紗耶
「これ買っていいかしら?」
「あぁ、もちろんだよ」
紗耶が見せるスマホの画面には色鮮やかなジュエリーがあった
もちろん値段は6、7桁もあるようなものばかりだ
「じゃあ…これとこれとこれ」
3つ合わせてとんでもない額であるものの
「いいよ。君が欲しいものはいくらでも買うよ」
「あ、あと…あなたの気に入っていたフランスで買ったティーカップ、ヒビが入ってしまったの」
「いいよ。同じものを買えばいい」
「そう…」
「そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。2つでも3つでも買えばいいんだから」
「ありがとう」
紗耶にとってはジュエリーなどとても興味が無いものだ
今までに服やジュエリーや高価なものをたくさん買ってきた
その度に自分にはいらないと使用人などにあげたものもいくつかある
「はぁ…どれだけ買うつもりよ」
高価なティーカップや花瓶はいくつかヒビが入ったと嘘をついたり、わざと壊したりもしたがその度に黒崎は買えばいいと言う
いいままでの仕返しとして興味のない高価な買い物をしているが黒崎が断ることはひとつもなかった
「もう土地にまで手を出すことになるんじゃ…」
そんなことすら考えていた
嫌がらせのつもりでも嫌がらせになっていない
過去に、夫にだけまずい料理を出そうと考えたもののきっと美味しいと笑顔で簡単に完食してしまうのだろうと思い諦めた
家事をしないといえば結局は使用人がしてしまうのだからなんのダメージもない
日頃嫌がらせを考えるのにも疲れ始めている
「はぁ…どうにかして」
だが諦められないのが紗耶の性格だった
この日から紗耶の地味な嫌がらせは2年ほど続くのだった