第6章 彼の世界
彼女を初めて見たあの時から僕はいつの間にか彼女を追いかけていた
「あっ…ごめんなさい…!」
彼女とたまたまぶつかったあの時から
「こちらこそ申し訳ない。大丈夫だったかい?」
「はい、私は大丈夫です。すいませんよそ見をしてたので…」
「いやいや、僕の不注意だよ気にしないで。あっ、これ落としたよ?」
「すいません、ありがとうございます」
あの時、彼女が落とした参考書を拾ったことがきっかけだった
「君、コーヒーのこと学んでるの?」
彼女の落とした参考書はコーヒーについてのものだった
「はい。バイト先が喫茶店なんです。少しでも美味しいコーヒーを入れられるようになりたくて」
「なるほど勉強熱心なんだね。実は僕、コーヒーが好きなんだけどまたそちらにお邪魔してもいいかな?」
「そうなんですね、ぜひ!いつでもお待ちしてます!」
彼女は僕にとびきり可愛い笑顔を向け、バイト先を教えてくれた
その日から僕は彼女のバイト先の常連になった
「いらっしゃいませー。あっ!」
「君の入れるコーヒーが飲みたくなってね」
「ありがとうございます!」
「いつもの頼むよ」
「はい」
こうして彼女が画面越しじゃなく、目の前にいることが僕にとっては幸せどころではなかった
「君、日に日にうまくなってるんじゃないかな?」
「本当ですか!」
「うん。とても美味しい」
「良かった。常連の方に言っていただけるのは本当にありがたいです」
「よく勉強してるだけあるよ」
「ありがとうございます」
こんな会話をするだけでもこの幸せが顔に出さないようするので精一杯なほど嬉しかった