第5章 決意
「さ、寒くはないかい?もし寒いなら…」
「あなたがさっきから頻繁に声をかけてくることにイライラして暑いぐらいなので結構です」
「っ…ごめん…」
今までの立場が逆になり見事に尻に敷かれている黒崎
とある日――――
「うっ…」
「っ!大丈夫かい?」
「っ…大丈夫ですから…」
「僕の前では無理はしないでくれ。ほら、僕に掴まって…化粧室まで行こうか」
つわりの酷い紗耶はこの時期が苦しく、吐き気を催すことが多かった
「立ちっぱなしではダメだよ?ほら、ここに寝て」
黒崎は紗耶を化粧室から抱きかかえ、ベッドまで連れていく
「君は無理をしすぎだよ。家事なんて使用人にやらせておけばいい。君が無理にひとりでする必要はないんだから、ね?」
「私が…育てなきゃ…」
「そんなに抱え込まないでほしい。この子の親は君だけじゃない。僕だって父親だよ?その為に今は君を支えるんだ。そして君が安心してこの子を産んでくれるように僕は祖父ときちんと話すことを決心したよ」
「え…?」
「たしかに祖父は頑固だ。でも僕はいずれ祖父のあとを継ぐ身になるんだ。だから男として君の夫、お腹の子の父としてかならず説得してみせるよ」
「詠人さん…?」
「ん?」
「変わりましたね。あなたがそんなことを言ってくれるなんて…」
「もちろんだよ。ちゃんと君たちは守るから」
「ありがとう…」
紗耶は涙を零し、眠りについた