第4章 逃げ惑うもの
「奥様…!」
スーツ姿の男が慌てて紗耶に手を差し伸べ起こす
「申し訳ございません。私の不注意で…!」
深々と頭を下げる
「あ…そんな!私が走ったからです」
「いえ、旦那様がいつも奥様には傷つけないようにとおっしゃっておられますので」
「旦那様…?」
「ええ、黒崎詠人様ですよ」
男の言葉に動揺を隠せない紗耶
「まって…私、結婚なんて…」
「旦那様は奥様である紗耶様のことを本当に一途に思ってらっしゃいますよ?ただ…会長であるお爺様の言われておられます許嫁とは結婚したくないと」
「私はこの黒崎家にふさわしい人間ではありませんから…」
「いえ、旦那様が認められた方なのですよ?それはさぞ黒崎家にとって名誉ある方に間違いありません。ですから自信を持ってください奥様」
「そんな…あの人に騙されてる…!私はここに強引に連れてこられて、監禁されてるだけ。何も力なんかになれない…それに私には元々恋人もいた、なのに…全てあの人のせいよ!」
男を突き飛ばし、泣きながら必死に外へ向かう紗耶
「おい…女が逃げた。さっさと捕まえろ」
先程突き飛ばした男が電話で何者かと話したのを紗耶は聞き逃さなかった
「出口はどこなの……まず、隠れなきゃ…!」
とっさに入った部屋のクローゼットへ身を隠す
「探せ!すべての部屋の隅から隅までを探せ!」
部屋の外で黒崎が部下達に命令をする声がした
「っ…!」
ここまで来てしまったからにはもう見つかるわけにはいかない
紗耶はクローゼットの中で必死に見つからぬよう息を潜めていた