第1章
「こんな気持ちになるのは、貴方以外にいないでしょう。どうか、私をこのまま・・・」
小刻みに震える肩を、リヴァイは優しく掴んだ。
「・・・あぁ」
このまま、二人で逃げよう、と思わず動きかけた口を、リヴァイははっとしてつぐんだ。
(よろしく頼むよ)
と言った時の、エルヴィンの顔を思い出したからだ。
兵士長である自分が、兵団の支援者である貴族から預かったものを盗んだりすれば、それはもう自分だけの責任では済まされないだろう。
当然、エルヴィンにも責めが及び、最悪の場合、調査兵団自体が立ち行かなくなってしまう可能性だってある。
「・・・・だめだ」
「・・・!」
消え入りそうに小さな声で言ってうなだれたリヴァイの表情は、前髪で隠れてうかがい知ることはできない。
だが、の肩を掴む手には僅かに力が込められて、リヴァイの葛藤を表しているかのようだった。
そんなリヴァイの姿に、の瞳からは次から次へと涙がこぼれ落ちていった。
(どうして…私は人間ではないのだろう)
は自分の運命を呪った。
自分は、貴族の道楽のためだけに作られた人形である。その目的に大義など無いのに、不必要に手をかけて作られたおかげで、命を宿してしまった。
だが自分が自由に過ごせるのは、皆が寝静まった夜、夢の世界の中でだけ。これから持ち主のところに戻されれば、きっと本来の目的のために使用されることになるだろう。全く心を通わせていない、知らない男性に。
リヴァイ以外の男に触れられるなど、とても耐えられないと思った。
今まで一体どれだけの人間達が、自分の事を物珍しそうに見物して行ったことだろう。
だがその中に一人でも、心を動かされる人間がいただろうか。リヴァイがしてくれたように、慈しむような愛情を注いでくれた人間がいただろうか。