第1章
「彼女は読書好きで、控えめな、清楚な女性である。彼女は一日の大半を読書や、景色を眺めて過ごす。好きな飲み物は紅茶で、辛い食べ物が苦手である。誰に対しても親切で優しい彼女は、周りの人間皆から愛されて育った、か」
エルヴィンが置いていった手帳に目を通し、ふうっ、とリヴァイは小さくため息をついた。
まったく、暇な人間がいたものだ。たかが道楽の人形に、ここまでやるものなのか。いちいち設定が細かい。
それに、その整った姿から、彼女を創りだすためには莫大な金がかけられたことがよく分かる。
容姿の美しさは前述した通りだが、身に付けている衣服も、まるで上流貴族の女性が着ているような上等なものである。頭のてっぺんから足のつま先まで手入れされた彼女は、美術品と言って良いほどに美しく完成していた。
リヴァイは本棚から適当に見繕ってきた本を、彼女の膝の上に開いて置いてやる。我ながらバカバカしいと思ったが、しかし彼女の様子はどうだろう。どう見ても、窓際に腰掛け、読書に没頭する深窓の令嬢にしか見えない。まるで、今にもこちらを見て
「とても楽しい物語ですね」
と、花のような笑顔を浮かべて本の感想を話し始めそうであった。
リヴァイは、ティーカップを二つ用意して、紅茶を淹れ始めた。ここまできたら、思う存分戯れてみるのもまた一興かもしれない。どうせ、誰も見ていない。
「お嬢様、紅茶でも飲みませんか」
カチャリと、彼女の横にあるサイドテーブルの上にティーカップを置く。
「おっと、名前があったんだったな。」
エルヴィンから手渡された手帳の表紙に、美しい筆跡でそう書かれてあったのだ。
リヴァイの言葉に、もちろん彼女は応えない。
だが、その口元には優しい微笑みがたたえられ、コバルトブルーの瞳は陽の光を浴びて、まるで宝石のように輝いている。
後に知ったことだが、”宝石のように”ではなく彼女の目は本物のサファイアを埋め込んで作られたものだった。