第1章
「美しいだろう」
彼女の美しさに釘付けになっていたリヴァイを、エルヴィンの声が引き戻す。
「だが、残念ながら彼女は人形だ」
「・・・なんだと?」
リヴァイの目が見開かれる。三白眼気味の瞳が強調されて、ちょっとした迫力すら感じさせる表情だ。
「この国一番の人形師が作った、愛玩人形だ」
淡々と続けられた言葉に、リヴァイは頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を覚えた。
(この美しく、気品のある女性が人形で、しかも愛玩人形だと?)
愛玩人形とはつまり、金持ちが道楽で作らせた、着せ替え人形のようなものだ。
実物を見たことはなかったが、リヴァイは常々、そのような人形を作って遊んでいる人間達を軽蔑していたし、また、その人形もさぞ醜悪なものだろうと勝手に決めつけていた。
だが、目の前にいる彼女の姿はどうであろう。卑しさなど微塵も感じさせない、むしろ清らかささえ感じさせるではないか。
「ある貴族から彼女の警護を頼まれてね。何でも、昼夜彼女を狙う輩が後を絶たず、使用人や用心棒だけでは守りきれなくなってしまったらしい。たかが人形相手になぜそこまでと思ったが、彼女を見たらその理由が分かったよ。彼女は美しい、美しすぎる」
はぁ、とエルヴィンが熱いため息をつく。
あの堅物と言われているエルヴィンですら、熱のこもった目で彼女を見つめているとは、これはただ事ではない。
「警護を依頼されたからには、万が一にも彼女が穢されるようなことがあってはならない。しかし、この美しさだ。間違いが起こらないとも限らない。そこで、白羽の矢が立ったのが、リヴァイ、君だったということだ」
「・・・ほう、俺なら間違いを起こさないとでも?」
唇の端をわずかに上げて、リヴァイが暗い笑みを浮かべた。