【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
本館二階の南側にある書斎は、昼間だと三つの窓から明るい光が差し込む。
壁には暖炉、部屋の中心には応接用の椅子が四脚。
引き出しの金具全てに家紋が入った文机は、大人二人が横に並んでも余りあるほどの大きさだった。
「それで・・・話とは何?」
八重は応接用の椅子のそばに立ち、文机の前に立つ赤葦から少し距離を取っているように見えた。
今は太陽が一番高い場所にある時間。
部屋は充分明るいはずなのに、重苦しい空気のせいで心なしかどんよりと暗く感じる。
赤葦は黙ったまま、文机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「これは、牛島夫人に送るために書いた、花会不参加を知らせる手紙です」
「・・・・・・・・・・・・」
確かに封書は牛島侯爵夫人宛てになっている。
八重が不安にならないよう、わざわざ投函する前の手紙を見せたかっただけか?
いや・・・それならば京香がいても問題はなかったはず。
八重が思案を巡らせていることなど百も承知なのか、赤葦は冷めた顔で先を続けた。
「この手紙を出す前に、一つお約束していただきたいことがあります」
濡れていつもよりいっそう強い癖をみせる赤葦の髪。
その下から氷のような瞳を八重に向ける。
「もう二度と───木兎家のためにならない決断はしないで下さい」
その瞬間、息苦しいほどの重圧感を覚えた。
まるで頭上から氷水を浴びたように震えが止まらない。
「貴方は牛島夫人の招待を受けるべきだった。それは必ず、木兎家のためになるはずだった」
「でも、牛島夫人は日美子様を侮辱したのよ。私は・・・私は、そんな方とはお付き合いできません!」
すると赤葦は手紙を机の上に置き、ゆっくりと首を傾げた。