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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第7章 冬の蝶




「ごめん、俺が八重に身体拭きを頼んだんだ。そんなに目くじらをたてるなよ」
「旦那様も軽率なことはおやめください。八重様に使用人の仕事をさせたなどと牛島夫人に知れたら」
「わかった、今度から気を付ける。だから八重を怒るのはやめてくれ」

眉尻を下げて懇願するような笑顔を見せられたらもう何も言えなくなる。
光太郎の天性の人たらしぶりには随分と耐性がついているが、それでも時折り絆されてしまうこともある。

だが、それを抜きにしても今のは自分が悪い。

赤葦は先ほどしたようにフゥと息を吐いてから深々と八重に向かって頭を下げた。

「声を荒げてしまい、申し訳ございませんでした、八重様」

「・・・・・・・・・・・・」

「ですが、旦那様の身の廻りのお世話はどうかこの赤葦にお任せください」

「・・・分かったわ、顔を上げなさい、赤葦。でも、私自ら申し出て光太郎様のお身体を拭いて差し上げたのです、光太郎様は決して軽率なことはしていません───貴方と違って」

最後の言葉は光太郎には聞こえぬよう、小さな声で。
赤葦が視線だけを上に向けると、そこには貴光の面影を色濃く残す黒い瞳があった。

思慮深く穏やかだった貴光の娘は、心では赤葦に対する恐怖や怒りを相当抱えているだろうに、それらを一切表に出すことなく、ただ僅かに手を震わせているだけ。
光太郎を心配させたくない、木兎家令嬢としての尊厳を保ちたい、そんな健気さが痛いほど伝わってくる。

自分が穢れなき人間だったら、謝罪の言葉を幾千、幾万と紡いで許しを請うただろうか。

ああ、八重様───白薔薇の君。
貴方はまだ純白のまま、その棘で誰かに血を流させてはいない。


「此度の出過ぎた言動をどうかお許しください。どのような処分でも受け入れます」
「あーあーあー、いいよそんなの! 考えすぎて一人で行き過ぎちまうの、お前の良くないところだぞ、赤葦!」

光太郎の明るい声が、凍り切った場を一瞬にして溶かしていく。
やはり彼がいると心強いのだろう、八重の顔からも強張りが消えていた。





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