【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
普段は必要のない限り赤葦と会話することがない。
だからといって話すことを拒む理由もないが、何となく今の赤葦は嫌な感じがする。
断れるものなら断りたかったが、生憎、適当な理由が思い浮かばなかった。
「・・・別に構わないわ」
「ありがとうございます。あと二人きりでお話したい内容ですので、姉さんは席を外していただきたい」
すると今度は京香が眉間にシワを寄せながら赤葦を睨んだ。
「いくら貴方といえど、八重様を男性と二人きりにすることはできません」
赤葦と八重が二人きりになることなど今まで何度もあった。
しかし、“今”だけは誰の目も届かない所で八重と弟を二人きりにさせたくない。
───京治がこの目をしている時は・・・
それは京香だからこそ分かる、危険信号だった。
「八重様、大切なお話なのです」
赤葦はそんな京香を無視し、もう一度八重に向かって口を開いた。
「どうしてもというならば仕方ありませんが、できれば二人きりでお話したいと思っています」
赤葦の濡れた瞳が八重を捕らえる。
なんだろう、この心臓が冷えるような感じは。
「・・・大丈夫よ、京香さん」
否、大丈夫だとは思えない。
同時に、赤葦のこの瞳から逃げられるとも思えなかった。
その視線はまるで、獲物を捕らえた梟のかぎ爪のよう。
「貴方は書斎の外で待っていて・・・何かあればすぐに呼ぶから」
赤葦の言葉と視線は、不思議な引力を持っていた。
「いいわ、赤葦。二人きりで貴方の話を聞きましょう」
京香が心配そうな目で自分を見つめていることは分かっている。
それでも八重は、赤葦の要求を受け入れること以外の選択ができなかった。