【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
良かった・・・
夜会での一件を隠してきたが、それは取り越し苦労だったようだ。
安心したのか八重の身体から力が抜けると、光太郎は左腕一本で支えながら口を開いた。
「八重は俺達のお姫様なんだ」
その瞬間、八重の心臓が大きく跳ねる。
あれ・・・?
これによく似た光景と言葉が・・・前にもあったような気がする・・・
私は誰かの膝の上に座っていて、その人は優しく頭を撫でてくれながら私を“お姫様”と呼んだ。
優しくて・・・強くて・・・王子様のようだったあの人は・・・
「お前の身体には、お姫様の血が流れている」
八重を乗せる引き締まった脚。
頭を撫でてくれる大きな手。
そして・・・横顔。
不思議と光太郎の全ては、死んだ父親と重なっていた。
「お・・・仰っている意味がわかりません」
自分のことを“お姫様”と呼ぶ人が、父親以外にもいるなんて考えもしなかった。
「え? 俺、難しいこと言ってる?」
光太郎は目を丸くしている八重を見て、ニコリと微笑んだ。
「直系の血を引く女だから、木兎家の姫。俺や赤葦、京香にとってお前はそういう存在だ」
───ただし、戦国の世からそうだったように、姫はその家のために犠牲になることもある。
「八重、お前は牛島夫人が開く菊合には出席したくないと言ったな?」
八重が頷くと、光太郎は視線を赤葦へと移した。
「赤葦。八重は招待を拒む理由をちゃんと話してくれた」
「はい」
「お前はそれでも菊合に出席させるべきだと思うか?」
赤葦は数秒ほど黙っていた。
八重が決して子どもじみた理由で拒んでいるわけでないことは理解している。
だが、それでも・・・
「はい。八重様は木兎家のために、牛島夫人の招待を受けるべきだと考えております」
どのような事情があろうと、牛島家と木兎家は親密な関係を築いておかなければならない。
赤葦は家令として、冷徹な態度を崩すわけにはいかなかった。