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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第5章 菊合




その瞬間、優しい温かさが八重の身体を包み込む。
光太郎の左腕が八重の背中を支えていた。

「うん、この方が八重の顔がよく見える」

「・・・やめてください、困ります」

「なんで? お前がどういう顔をしているのか分からない方が困る」

光太郎の感覚はどうも、八重のそれとは少々ずれているらしい。
しかし、顔を覗き込んでくるその瞳に下心は微塵も感じられず、あくまで家族として八重に触れているようだ。

だからこそとても優しく、とても温かい。


「なぁ、八重・・・俺は嬉しかったよ」

「え・・・?」

「お前は母上の名誉を守れなかったと謝っていたけれど、木兎家の人間として母上の名誉を守りたいと思ってくれたことが嬉しい」


光太郎の言葉に偽りは無かった。


「お前は一生懸命、“木兎家の人間”になろうとしてくれている。それが俺にはとても嬉しいんだよ」


光臣の言いつけで八重を引き取ることになった時、光太郎は当主として不安しかなかった。
一人の人間の人生を狂わせてしまうかもしれない。
場合によっては、木兎家を大きく傾かせてしまうかもしれない。

でも八重は今、こんなにも健気に木兎家の人間になろうとしてくれている。

光太郎は八重の頬を右手で包み、自分の方を向かせた。
そして金色の光を宿す瞳でジッと見つめる。

「八重。頼むから俺と赤葦、そして京香を信じて欲しい」

「光太郎さん・・・」

「確かに母上を貶されたのは腹立つ。でも、俺も赤葦も京香もそれを聞いたくらいじゃ傷つかねェよ」

光太郎がそう語る間も、赤葦は眉一つ動かさずにいた。
同様に京香も少しの動揺も見せず、真っ直ぐと光太郎と八重を見つめている。

二人にとって重要なのは、日美子を貶す人間がいたということでも、八重が日美子の名誉を守れなかったということでもなかった。

赤葦家の姉弟にとって何より優先すべきは、現当主である光太郎と八重───ただ、それだけ。








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