【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「分かった。じゃあ、今度は京香に聞く」
光太郎は次に壁際に立っている京香の方を見て、赤葦と同じ質問を投げかけた。
「京香は、菊合に出席させるべきだと思うか?」
それまで静かに成り行きを見守っていた京香は、光太郎と八重を順に見つめて瞳を揺らす。
一瞬、悲しんでいるように見えたが、次の瞬間にはいつもの柔和な笑顔に戻っていた。
「京治と同様、そのご質問に対する私の答えも一貫しております」
京香は八重を見て、安心させるために微笑む。
「私は八重様が望まれる通りにすべきだと考えております」
無理に行かせなくてもいいだろう。
それによって牛島家の不興を買っても、尻ぬぐいは使用人の仕事だ。
「赤葦は出席させるべき、京香は八重の望み通りにすべき・・・意見が割れたな。じゃあ、俺の一票で全ては決まるな」
八重が不安げな顔を見せると、光太郎は太陽のような笑顔でグリグリと頭を撫でてきた。
「俺も八重が決めた通りにすればいいと思ってる!!」
「こ、光太郎さん・・・それでいいのですか?」
「言っただろ。お前は俺達のお姫様だって」
───お前の望み通りにしてやりたい。
「八重が行きたくないなら行かなくていい。赤葦もそれでいいよな?」
そんな光太郎に赤葦が苦言を呈するかと思えば、意外にも家令は何も言わずに頷いた。
やはり、彼にとって当主の言葉は絶対なのだろう。
「さて・・・」
光太郎は改めて八重を真っ直ぐと見た。
「牛島夫人の招待を受けるか、受けないか───最後にもう一度、はっきりとさせよう」
光太郎の瞳。
赤葦の瞳。
京香の瞳。
三者三様の想いが八重に向けられる。
“八重のこの小さくて可愛い体には、お姫様の血が流れているんだよ”
お父さま・・・
あの時に仰っていたのは、彼らの言う“お姫様”と同じ意味だったのでしょうか。
それなら私は・・・
「────私は・・・」
八重は腹の底から絞り出すようにしながら、三人の前で己の気持ちを吐露していた。