【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「こっちに来いよ、八重」
光太郎の声はいつもと変わらず、明るいものだった。
そこに八重への軽蔑は少しも込められていない。
恐る恐る顔を上げると、椅子を大きく引いた光太郎が両手を広げていた。
「テーブルの分だけ遠い。お前の顔が良く見えないよ」
「・・・・・・・・・・・・」
手招きに促され、ガタリと音をたてた八重の椅子。
遠慮がちにダイニングテーブルを周った八重は、赤葦と京香の視線を感じながら光太郎の横に立った。
すると光太郎は何を思ったかニンマリと笑いながら、ポンポンと膝の上を叩いた。
「ここに座れ」
「・・・はい?」
一瞬、何かの聞き間違いかと思った。
光太郎の膝の上に座れ、と言われたような気がするが、そんなはずはない。
戸惑いながら光太郎の顔を見ると、満面の笑みで今度は筋肉の張った太ももをポンポンと叩いた。
「俺の膝の上に座れ」
「あの・・・本気でしょうか?」
「うん、俺はいつも本気だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
八重は焦ってすぐ後ろにいる赤葦を見た。
さすがに“何をしているんだ、旦那様は”と言いたげな顔つきだが、止めるつもりはないらしい。
小さい子どもならまだしも、光太郎と八重は一つしか歳が違わない。
いくら家族とはいえ、一緒に育ったわけではないから膝の上に座るのは気が引けた。
しかし、光太郎の前では待ったなし。
「八重、この家の主は誰?」
「・・・光太郎さんです」
「じゃ、俺の言うことを聞くよな!」
有無を言わせない笑顔の圧力に、もうどうしていいか分からない。
救いを求めるように京香の方へ目をやると、“旦那様の言う通りにしてあげてください”と目配せしている。
「なに・・・そんなに俺の膝の上に座るのが嫌なの?」
今度は泣き落とし作戦か? と思ってしまうほど、光太郎はしょんぼりとした顔をしていた。
このままでは気分を損ねてしまう。
「わ・・・分かりました」
八重はギュッと目をつぶりながら開いた光太郎の股の間に立ち、左太ももの上に腰を下ろした。