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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第5章 菊合





「夜会で光太郎さんをお待ちしていた時、牛島夫人と数名の御婦人方に話しかけられました」


“先ほどのワルツを見ていましたけど、八重さんは日美子さんと違って気品があるものね。光臣様の御子息のお相手に相応しいわ”


「その時、牛島夫人達は日美子様の・・・し、出生について陰口を叩いていました。光臣様に相応しい御婦人ではなかったって・・・」


八重は光太郎の顔を直接見ることができなかった。
自分の母親がそのように貶されていたら、誰だって怒りや悲しみを覚えるだろう。


「それ以外にも、日美子様を侮辱する聞くに堪えない言葉をたくさん・・・妾腹だったとか・・・息子ほど年が離れた男性と不貞を働いていたとか・・・」


八重は悔しさのあまり震えていた。


「申し訳ございません、光太郎さん。そんな風に日美子様が侮辱されていたというのに、私は黒尾さんが助けてくれるまで何も言い返せないでいました」

「黒尾が・・・? ああ、そういえば一緒にいたな」


“あー、見苦しいですなァ。手本となるべき人生の先輩方が、若い御婦人の前でみっともなく嫉妬を連ねるのはどうかと思いますけどねぇ”


「黒尾さんが夫人達を窘めてくださって・・・その場は収まりましたが、私は結局、木兎家が侮辱されていたのに何も出来ずじまいでした」


重い空気がダイニングルームを包み込む。
八重は悔しさと申し訳なさと情けなさで、ただ項垂れるしかなかった。


「だから私は牛島夫人達と顔を合わせたくないのです。日美子様を悪く言う方々が許せないし、木兎家の人間なのに日美子様の名誉をお守りできなかった自分自身も許せないから・・・」


光太郎は今、どのような顔をしているだろう?
赤葦は・・・京香は・・・?

先代に最も愛された女性で、当代の母親である日美子が侮辱されている。
八重は木兎家に引き取られた身でありながら、何もできなかったばかりか、牛島夫人達から逃げようとしている。

光太郎はそんな自分を軽蔑しているかもしれない。

消え入りそうな声で再び、“申し訳ございません”と八重が口にした瞬間。

正面でガタリと椅子を引く音がした。










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