【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「ところで八重、牛島侯爵夫人から花会に招待されているそうだな」
とうとう切り出された本題に、ピクリと赤葦の頭が動く。
京香も表情こそ変えないものの、顔を上げて光太郎を真っ直ぐと見つめていた。
「・・・はい、菊合にご招待いただきました」
「ふーん」
光太郎は曖昧に返事をしながら、ナイフとフォークを動かし続けている。
普段は明るい表情を崩さない人間が言葉少なになると、空気を押し固めたような圧力を相手に感じさせるものだ。
「それで、返事はどうするつもりなの?」
「あの・・・光太郎さんにお許しいただけるなら、お断りしたいと考えております」
「何で?」
「それは・・・」
先ほど赤葦に問いただされた時とはワケが違う。
引き取ってもらった分際で、当主の質問に答えないわけにはいかないだろう。
しかし・・・
ここには使用人が多すぎる。
「・・・・・・・・・・・・」
押し黙ってしまった八重を見て、光太郎は困ったように溜息をついた。
「あのな、俺は別にいいにしても赤葦がそれじゃ納得しない。ウシワカの家には赤葦から返事を出すから、どちらにしてもコイツを納得させないと駄目なんだよ」
言い終わった後で“そうだよな、赤葦?”と、後ろを振り返って家令が頷くのを待つ。
確かに招待状は八重宛てだったが、侯爵家から伯爵家への正式な書状である以上、実質上の当主代理である家令から返答するのが通例だ。
「り・・・理由は個人的なものですので・・・口にすることは・・・」
「・・・ふーん」
それでも明かそうとしない八重に、さすがの光太郎の眉間にもシワが寄った。
ああ、怒らせてしまったか・・・
やはり理由を明かさずに招待を辞退したいだなんて、虫がよすぎるのかもしれない。
ならば、この場で全てを話すよりは、我慢して出席した方が事は平和に済むだろう。
「あ、あの、光太郎さん」
それは、意を決した八重が顔を上げたのとほぼ同時だった。
「───赤葦、京香以外の者は全員下がれ」
光太郎は食事を中断し、闇路達に向かって人払いを命じた。