【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
木兎家では代々、当主は一人で食事をする決まりとなっている。
光太郎の我儘で朝食だけは八重や赤葦も同席するが、夕食はしきたりに従って一人で食べることになっていた。
しかしこの日のダイニングテーブルに並べられたのは、二人分の食事。
「お呼びでしょうか、光太郎さん」
「おお、来た来た! 座れ、座れ」
どことなく緊張した面持ちでダイニングルームに入ってきた八重を、光太郎は満面の笑みで迎えた。
しかしその後ろでは赤葦がいつにも増して冷たい表情で立っている。
「今夜は八重と一緒に夕飯を食いたいと思ってな。いいだろ?」
「・・・はい、喜んで」
見たところ光太郎は普段と変わりないが、このタイミングで食事に誘ってきたのはただの気まぐれではないだろう。
八重は椅子に座りながら、チラリと赤葦の方を見た。
こちらを睨んでいるものと思いきや、その視線は他の使用人達と壁際に並ぶ京香に向けられている。
───姉さん、先手は打たせてもらいました。
そう言いたいのだろうか。
「遠慮するなよ、八重」
「はい」
とはいえ、ただでさえこんなに大勢の使用人が見守る中、光太郎と二人で食事をするのは緊張する。
ほとんど味を感じぬまま前菜やスープを胃に押し込んでいったが、心の中ではいつ光太郎が花会のことを切り出すのか気が気ではなかった。
「それでな、今日は澤村から合い面で一本取った」
澤村とは同じ学習院の同級生で、剣道の稽古仲間らしい。
光太郎はよほど腹が減っていたのか、メインディッシュのビフテキを平らげても、なかなか世間話以外の話題を出そうとしなかった。
「澤村は雑食だから、上達が早ェんだよ。でも技術は黒尾の方がまだまだ上かな。そうだ、今度お前も稽古を見に来いよ」
「はい、お邪魔にならないのであれば」
やはり、八重を夕食に誘ったのはただの気まぐれだったのだろうか・・・?
そう思った直後だった。