【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
その日の夜。
学習院の最終学年になってからというもの、光太郎はより一層、剣道に力を入れるようになっていた。
廃刀令や西欧化政策のあおりを受けて一時は廃れた剣術だが、近ごろは心身を鍛える武道の一つとして復興を果たしている。
「おかえりなさいませ、旦那様」
今日も光太郎が帰ってきたのは七時すぎ。
ここのところ毎日、学院のあと剣術道場に通い、時間が経つのも忘れて稽古に耽っている。
「はー、腹減った!! 八重は?」
「八重様はお部屋にいらっしゃいます。それより旦那様、お話が」
「どうした赤葦」
“それ、飯の後じゃダメ?”という顔で光太郎は腹を押さえながら、出迎えた使用人の列の先頭にいる赤葦を見た。
しかし、事は一刻を争う。
京香に先を越されれば光太郎のことだ、二つ返事で八重に牛島夫人の招待を断ってもいいと言うだろう。
「牛島夫人から八重様に菊合の会への招待状が届きました」
「へー、ウシワカの母上から? 八重が気に入られているってお前も言っていたもんな」
「はい、そうなんですが・・・」
明らかに不機嫌そうな赤葦に、光太郎は首を傾げた。
この間、牛島夫人が八重を気に入っていると話してくれた時はとても嬉しそうだったのに。
「八重様は招待を辞退すると言ってきかないのです」
「なんで?」
そんなことよりも腹の虫がおさまらない光太郎は、たいして大きな問題と考えていないようだ。
早くダイニングルームに行きたそうな顔をしている。
「理由を尋ねても答えてくれないから困っているんです。旦那様からも説得していただけませんか?」
「そりゃ構わないけど・・・八重が嫌がっているなら、無理に行かせたくはねぇよな。で、赤葦はどうして欲しいの?」
「無論、馬鹿なことは言わずに出席していただきたい」
普段から光太郎に対しても遠慮ない物言いの赤葦だが、今日はいつも以上に声が尖っている。
こういう時は何かに葛藤し、心の均衡を保とうとしていることが多い。
「・・・分かった。飯を食いながら話すから、八重を呼べ」
光太郎は赤葦の気持ちを汲み、彼の瞳を真っ直ぐと見て頷いた。