【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
「八重!!! よく来たな!!!」
大理石の階段の上から突然降ってきた、雨空すらも晴らしてしまいそうな明るい声。
見上げると、一人の青年が羽ばたく大きな鳥のごとく両手を広げていた。
「あんまり遅いから、どっかで立往生してるんじゃねぇかって心配した!!」
「・・・?」
上品な紺青色の着物を着たその人は、八重に向かって人懐っこい笑顔を向けている。
すると、赤葦が額の真ん中を人差し指で押えながら、小さく溜息を吐いた。
「私が呼びに行くまで、お部屋で待っていてくださいと言ったでしょう」
「だって待ちきれなかったんだもん」
「客人の出迎えは使用人の仕事です。それに初対面の御婦人に、いきなり大声で話しかけるなんて失礼ですよ」
「そ、そんなに怒るなよ、あかーし」
赤葦に叱られてしょんぼりとしている彼は、日本人にしてはとても色素の薄い目の色をしていた。
左右に逆立てた髪はまるで、ミミズクの頭に生える羽角のよう。
赤葦とは対照的に目、鼻、口の造りが大きく派手な顔立ちをしているが、それよりも驚いたのは彼が長身の赤葦よりさらに1寸ほど身長が高いことだった。
彼ならばきっと、英国貴族の社交界であっても周囲の目を引くだろう。
「ご紹介いたします、八重様」
赤葦は姿勢を正し、静かな瞳で階上の青年を見上げた。
「あちらが、木兎家当主・光太郎様です」
戦国武将を祖先に持ち、江戸の時代には七万石の大名として藩を治めていた木兎家。
赤葦京治を始めとした何十人もの使用人を抱える名家の主は、エッヘンと得意げに胸を張っていた。
「初めまして、光太郎様」
「あー、いいよいいよ、“様”なんか付けなくて! 俺達、ひとつしか違わないんだからさ!」
峻厳な態度の家令と違い、当主はどこまでも気さくな性格のようだ。
階段を一段飛ばしで駆け下りてくると、八重の目の前に立って大きな笑みを見せた。