【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
玄関をくぐってまず目に飛び込んできたのは、赤絨毯が敷かれた大理石の階段。
エントランスはとても広く、天気の良い日ならば板ガラスを贅沢に使った天窓から、陽の光が差し込むだろう。
「ここは本当に日本なの・・・?」
八重が言葉を失っていると、赤葦は無表情のまま天井から吊り下げられたシャンデリアを見上げた。
「“御実家”でも思い出されましたか?」
「・・・私が育った家よりもずっと立派」
「こちらが本日より八重様のお住まいとなる場所です。その他の家のことはお忘れください」
棘のある物言いは、彼の生来のものなのだろうか。
それとも、八重を歓迎していないのだろうか。
「この館の装飾は全て、先代の奥様の御趣味です」
ルネサンス様式の建物に合わせ、木兎邸の家具や調度品のほとんどは十八世紀の英国風だった。
しかし、有田焼の壺や鳳凰図の屏風など和式の装飾品もうまく溶け込むよう、全てがセンス良く配置されている。
「伯母様は素晴らしい方だったのね・・・」
八重が感嘆を漏らすと、赤葦の眉がピクリと動いた。
雨で濡れた前髪を直しながら、わずかに尖らせた瞳で八重の背を見つめる。
英国で生まれ育ったこの令嬢が、何故今ここにいる。
本来ならば、本家の屋敷と無縁の人生を歩んでいたはずなのに。
「・・・八重様、お疲れになったでしょう」
木兎家が八重を迎え入れることなど、無かったのだ。
あの事故さえなければ───
「客間へご案内いたします。どうぞ、こちらへ」
渦巻く想いを押し殺しながら、家令が八重に向かって頭を下げた、その時だった。