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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第4章 白薔薇




「今宵の鹿鳴館は大盛況だったそうです」

京香の柔らかい手を握り返すこともなく、赤葦は儚げな声で言った。

主催者の大隈夫人は八重のことを高く評価していたと聞くし、これで社交界に新たな木兎家当主と八重の印象を強く残せたはず。

八重のお披露目は夜会に出席させる一番の目的であり、成功したのは喜ばしいことだ。
それなのに・・・

夜会から帰ってきた光太郎は、出迎えた赤葦を見て辛そうな笑顔を作っていた。


“八重は誰よりも目立っていたよ。あの分じゃ、すぐに縁談の申し込みが来るんじゃないかな”


家柄と血筋は申し分なし。
英国仕込みの教養と、貴光から譲り受けた容姿は、多くの華族にとって魅力的に映るだろう。


───だが、間違えてはいけない。

そんなことのために八重をこの家に呼んだわけではない。



「・・・姉さん」

赤葦がゆっくりと京香の方を振り返る。

静かな瞳の奥に見え隠れする、蒼白い炎。
隠しきれない劣情に、京香の表情が僅かに強張った。


「───今夜も・・・いいですか?」


赤葦は京香の頬をそっと撫でると、ポケットから小さな入れ物を取り出した。


「・・・・・・・・・」


それは白薔薇の香水が入った瓶。
強い香りを発する液体を手の平に垂らし、そのまま撫でつけるように京香の髪を梳く。

途端に立ち込める、薔薇の香り。

それだけでは足りぬとばかりに、赤葦は香水を京香だけでなくベッドにも振りかけた。


「・・・あ・・・」


京香の寝室を埋め尽くす薔薇の香りは、恐怖の始まりの合図。
赤葦はほとんど空になった小瓶をテーブルに置くと、京香を背中から包み込むように抱きしめた。


「目を閉じてください、姉さん」


耳元で囁く声はとても切なく。
京香は言われるがままに目を閉じる事しかできなかった。

今夜も無抵抗だと確信したのか、赤葦はさらに柔らかい布で京香の目を覆うように縛る。







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