【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「どうして・・・目隠しをするの・・・?」
視覚を奪われ、嗅覚も強い薔薇の香りで麻痺している。
呼吸のたびに全身の神経が過敏になっていくような錯覚に陥り、京香は背後にいるはずの京治を求めて手を伸ばした。
「目隠しを外して、京治」
「・・・それはできません」
赤葦は苦しそうに眉根を寄せ、震える京香の頬を撫でた。
冷たい手の感触。
ガタンという戸棚の開閉のような音。
男の息遣い。
強い薔薇の芳香のせいで嗅覚と視覚以外の五感が研ぎ澄まされているのに、状況が分からない恐怖が京香を襲う。
「京治・・・京治、怖い・・・!」
「すみません、でもこれは姉さんのためです」
───目隠しを外すことはできない。
交わってはいけない肉体同士の結合を直視したら、貴方はさらに自分を責めてしまうだろう。
「貴方の心が少しでも傷つかないようにするためです」
姉さん・・・誰よりも大切な人。
貴方の心を守るためなら、俺はこのまま地獄に堕ちてもいい。
「責めるのは俺だけにしてください。その代わり・・・どうか、この行為は受け入れて欲しい」
それが今宵、京香が聞いた最後の言葉となった。
強い白薔薇の香り。
首筋を這う舌のヌルリとした感触。
解かれる帯。
乳房に吸い付いてくる唇。
何も見えない。
ただ感じるのは薔薇の香りと、身体を這う熱のこもった指先。
「あっ・・・」
月明りに照らされた白い裸体がのけぞった。
恐怖と快感に震え、何かに助けを求めようとする声は、言葉になる前に喘ぎ声となって暗闇にかき消されていく。
たとえ許されない想いだとしても・・・
この性行為の先にあるのは喪失感だけだとしても・・・
今の“私達”にできるのは、一筋の光にすがることだけ。
“日美子様に代わる光・・・私は貴方達のためにも、それになれるよう頑張るから”
荒い吐息も、ポトリと頬に落ちてくる汗の雫も、全てかき消してしまう白薔薇の香り。
開いた蕾に割って入る欲望はただ、京香の胎内で切なげに震えていた。