【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「それより木兎、さっき清水家の潔子嬢を見かけたぞ!」
「本当か?! あの潔子ちゃん?!」
「今日も相変わらずの麗しさだったぜ。お前、誘ってみろよ」
清水潔子という女性は知らないが、二人の様子から察するに相当の美人に違いない。
光太郎は“うーん”と唸っていたものの、首を横に振る。
「いやいや! さっきも言った通り、今夜は八重をエスコートするって決めてるから」
「いいのかよ? 潔子ちゃんが夜会に出席するなんて滅多にねェことだぞ」
「そうなんだけどよー」
黒尾がやけに潔子の元へ行くよう光太郎に勧めているのは、自分とまだ話があるからなのかもしれない。
そう思った八重の方にも、黒尾に聞きたいことがまだたくさんあった。
「光太郎さん。私は大丈夫ですから、他の女性と踊ってきてください」
「え、なんで?!」
「私も黒尾さんと一曲踊ってきます。先ほどお誘いいただきました」
そんな事実は無いのだが、サッと目配せをすれば、黒尾もニヤリと笑いながら頷く。
「そういうこと。八重ちゃんを少し借りるな、木兎」
「・・・おい!」
しかし、八重をエスコートするために差し出した黒尾の手を掴んだのは、光太郎だった。
「───八重をエスコートするのは俺だ」
いつもより低い声に、それまで余裕綽々だった黒尾の表情が変わる。
「・・・何。一曲の間も八重ちゃんを放したくねぇの?」
「今夜は八重を独り占めする。他の男と踊るのは俺が許さねぇ・・・例えそれがお前だろうと、な」
いつになく真剣な光太郎の瞳に、黒尾は小さく“へぇ”と漏らした。
「もしかしてお前・・・もう“その気”なのか」
チラリと光太郎から八重へと視線を移し、一瞬だけ眉間にシワを寄せた黒尾。
「もう少し時間がかかると思ってたんだが・・・なぁ、木兎?」
「・・・・・・・・・・・・」
光太郎を見つめる黒尾の瞳の色が変わる。
木兎・・・お前は、狂った運命の歯車を戻そうと必死になっているだけなのか。
それとも───