【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
“貴光様の一人娘・・・白薔薇のごとき令嬢でしょう”
初めてその令嬢の名前を耳にした時、悲哀とも憧れともつかない感情を覚えた。
何故ならその人は、運命の歯車が狂わなければ会うことのない女性だったから───
「仰っている意味が分かりません・・・私の事をどなたからか聞いていたのでしょうか?」
抗いようのない運命の渦に飲み込まれて今、貴光の娘はここにいる。
その運命がもたらす悲劇を知らぬは、本人ばかりだ。
「・・・うちは木兎家と親しくさせてもらっているから、貴光殿に御令嬢がいるという話はちょくちょく聞いていた」
「そうでしたか・・・まさか、英国にいた私達の話を、遠く離れた日本でされていたとは思いませんでした」
それでも居心地の悪さを隠せていない八重に、黒尾は笑みを口元に浮かべた。
しかし、月明りとダンスホールから洩れる光だけでは、黒尾が腹の底に溜め込んでいる積年の想いまで八重の瞳に映ることは無い。
「だけど、八重ちゃんに会いたかったというのは、単なる俺の好奇心」
「好奇心?」
捉えどころのない黒尾の言葉は、薄氷の上に立たされたような不安を八重に与えた。
「木兎家の新たな“光”は、どのような御方なのか───」
細い瞳孔の瞳が光る。
その視線はまるで獲物を狙う猫のようで、静かに、だが確実に相手を追い詰めていく。
「木兎の血が与えた使命を君はどう受け止めるのか───見てみたいと思った」
冷たい夜風が、二人の間を割るように吹き込んできた。
その僅かな音と共鳴するように響く、心臓の鼓動。
「私に与えられた・・・使命・・・?」
漠然とした不安と恐怖で、息苦しささえ感じる。
「貴方はそれが何か知っているの?」
ずっと疑問だった。
木兎家が何故、自分を引き取ったのだろうか、と。
もしかしたら、この男はそれを知っているのかもしれない。
「ああ、それは───」
白い月を背にした黒尾がゆっくりと口を開いた、その時だった。