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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第4章 白薔薇




「ウシワカはそれくらいで態度を変えるような奴じゃない」

八重は牛島若利と一度も顔を合わせたことが無いが、黒尾が平然としているということは、きっとそうなのだろう。

「それに気に入らねェんだ。御一新の前に公卿や大名だったというだけで、今は華族としての品位を保つための資産も無いくせに、格下の身分を相手に威張り散らす奴らが」

黒尾家は平民だが、その資産は下位の華族を軽く上回る。
中には隠れて金を借りに来る華族もいるほどだ。

数日前に黒尾家に頭を下げて金を借りた男爵が、社交の場ではふんぞり返り、黒尾が逆に深々と頭を下げるなんてことはザラ。

「この夜会だってそうだ。欧米に負けない強国家であることを示すためとか言いつつ、みんな似合いもしねェ洋服を着て、踊れもしねェワルツを踊っている」

君は違うけどな、と付け加えて黒尾は微笑んだ。

「昔はもっと酷かったそうだ。自分達は踊れないからって芸妓にドレスを着せて貴族に見せかけ、外国人の前で踊らせていたらしい」

それが、日本の社交界だ。
見栄と虚勢で塗り固められた、欲の坩堝。


「・・・そんな奴らが、日美子様のことを悪く言う資格はない」


その中でドレスを着こなし、ひときわ美しく踊っていた日美子。
西洋的な外見と明朗な人柄で、すぐに当時の社交界のマドンナとなった。
女性達の憧れの的だった光臣が、日美子に夢中になったのも仕方がない話だろう。


「・・・ありがとう、黒尾さん」


自分の代わりに木兎家のために怒ってくれて。
爵位に囚われない権力者はなんと強いことか。

八重は黒尾を真っ直ぐと見つめ、感謝の意を込めて頭を下げた。

その瞬間、黒尾の表情が初めて夜目にも分かるほど大きく変わる。


「───だから、礼を言われるほどのことじゃない」


先ほどまでの余裕は消え、その瞳には寂寥の色が浮かんでいた。


「俺は・・・ずっと前から八重ちゃんに会いたかった」


声をかける理由は、きっかけは、何でも良かった。


「木兎家が君を引き取るずっと前から、俺は君に会いたかったんだ」


木兎八重という令嬢に───


白い月明かりが照らす黒尾は、一途に切なそうな表情をしていた。
















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