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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第4章 白薔薇




食えない男───

八重は簡単に頭を下げる黒尾を見て、そう思った。


「社交界で生きていきたかったら、身分をわきまえなさい。皆さん、行きましょう」

謝罪をさせて満足したのか、牛島夫人は取り巻きを連れてダンスホールへと戻っていく。
しかし、黒尾はその牛島夫人の背中に向かって舌を出していた。


「あんたらこそ、社交界で生きていきたかったら“身の丈”をわきまえろ」


・・・怖い男だ。

自分よりも身分の高い者達を煽ったと思えば、すぐに手の平を返して下手に出る。
敵を作るようで作らず、自分の手の内を明かさずに相手の懐を抉りにいくのか。


「木兎八重ちゃん」


突然名前を呼ばれてビクリと身体を強張らせると、黒尾が顔を覗き込んできた。

二階のバルコニーの向こうは暗闇。

真っ黒な髪の隙間から逆さ三日月の形をした目で見つめられ、背中に恐怖とも悪寒ともつかない冷たさが走る。

「あの・・・私をご存知なのですか?」

「ああ、知ってる。木兎貴光様の娘、だろ」

自分はまだ日本に来て日が浅いと言うのに、なぜ皆は当然のように知っているのだろう。

バルコニーには八重と黒尾以外に誰もいない。
得体のしれない男性と二人きりだという状況に、八重は少しでも距離を取るため、白い手すりまで後ずさりをして顔を背けた。

「警戒しなくてもいいよ。二人きりだけど、人目がないというわけでもない」

黒尾がチラリと横目で見た先には、開け放したガラス戸の横に立っている給仕達。
さらに談笑している客達もいる。
それほど声を張り上げなくても、何かあればすぐに彼らは気づくだろう。

「どうした、ちょっと震えてる?」

それでも顔を背けて唇を噛んでいる八重に、黒尾の口元から初めて笑みが消えた。


「俺が怖い?」

「それもあるかもしれません・・・でもそれよりも、私自身が情けないのです」


口を真一文字に閉じ、扇子を持っていない方の手でドレスをきつく握っている八重は、悔しさのあまり目の端が赤く染まっていた。








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