【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「あの・・・私は日美子様にお会いした事がございませんので───」
故人の悪口はやめてください、そう言いたかった。
しかし、定子達は八重の気持ちを間違って汲み取り、さらに続ける。
「こう言っては罰当たりかもしれないけれど、日美子さんが光臣様に相応しい御婦人ではなかったというのは周知の事実でしょう」
「光臣様の寵愛を一身に受けながら、ご自身は他の男性と浮名を流していたのだから」
───嘘だ。
日美子様は、誰からも愛された方のはず。
「結婚なされる前は、舞踏会で光臣様と貴光様が他の女性と踊らないよう仕向けたり、かと思えば、ご自分は他の男性に色目を使ったり・・・」
“先代の奥様、日美子様はその名のごとく、太陽のような御方でした”
京香は心から日美子を尊敬していた。
あの言葉に偽りは微塵も感じられなかった。
「あげくの果ては、息子ほど歳の離れた男を愛人にしていたそうよ。怖い怖い」
“日美子様にお仕えできたことは私の誇りであり、何よりの自慢です”
京香があそこまで憧れている女性を、何故傷つけようとする?
故人の名誉を穢す、心無い言葉に吐き気がする。
しかし牛島夫人を始め、ここにいるのは自分よりも目上の人達だ。
八重はただ憤りに震えながら黙って聞く事しかできないでいた。
「子爵家の娘といっても妾腹でしょう。光臣様がいなければ───」
鼠色の着物の婦人が意地の悪い顔でさらに陰口を重ねようとした、その時。
「あー、見苦しいですなァ」
光太郎とは違う男の声が、鬱屈とした空気に一筋の亀裂を入れた。
「手本となるべき人生の先輩方が、若い御婦人の前でみっともなく嫉妬を連ねるのはどうかと思いますけどねぇ」
八重と牛島夫人達が振り返ると、バルコニーとダンスホールの境目の所で、トサカのような髪型をした長身の男が薄い笑みを浮かべながら立っていた。