【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
しかし、人の集まる夜会ではなかなか思惑通りにいかぬもの。
ダンスの合間に光太郎は年配の男爵に捕まってしまい、八重は一人、火照った身体を冷やすためにバルコニーで夜風に当たっていた。
そろそろ戻ろうかと思っていると、知った声に呼び止められる。
「八重さん」
「定子様! 先日はどうもありがとうございました」
シャンパングラスを持って立っていたのは、この間生け花を教えてもらった牛島侯爵夫人だった。
今日も上品な着物姿で、三名の婦人達を従えている。
「八重さんがくると分かっていたら若利もつれてきたのに・・・残念だわ」
そういえば、花会で息子のウシワカを紹介したいと言っていたか。
こういう時は何と返すのが正しいのか分からず八重が口どもっていると、牛島夫人はお構いなしに先を続けた。
「大隈夫人が八重さんのことをとても褒めていらっしゃったわよ。さすが、貴光様の御息女ね」
「お・・・恐れ入ります」
すると牛島夫人と一緒にいた婦人の一人が会話に割って入ってきた。
「木兎伯爵と八重さんが並んでダンスホールに入ってきた時、光臣様と貴光様が夜会に出席された時の華やかさを思い出したわ」
三人は皆、牛島夫人と同年齢で、光太郎と八重の父親達の若い頃を知っているようだった。
すると、鼠色の着物を着た地味な顔立ちの夫人が口を開いた。
「先ほどのワルツを見ていましたけど、八重さんは日美子さんと違って気品があるものね。光臣様の御子息のお相手に相応しいわ」
それは明らかに澱みのある言葉だった。
しかも、定子を含めて四人ともクスクスと笑っている。
「あら、故人を悪く言うのは良くないわ」
「でも本当のことですからね。出生の違いは隠し通せなくてよ」
───何を言っているのだろうか、この人達は。
日美子の事を貶している・・・?