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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第4章 白薔薇





“木兎家の光臣様と貴光様といえば、社交界で知らぬ者はいない御兄弟だったのよ”

牛島夫人の懐古にあった“大輪の花”は今、一世代を超えて鹿鳴館のダンスホールに再び咲こうとしていた。


「俺と踊ってください」


他の男性出席者から頭一つ分抜き出る長身と、逞しい体つき。
綺麗にまとめた明るい色の髪に、硝子玉のように輝く大きな瞳。

若かりし頃の父と同様、光太郎はそこに佇むだけで人を惹きつけてやまなかった。


「はい、よろこんで」


その彼の手を八重が取った瞬間、周囲の空気が変わった。

欧羅巴を流れる大河の流れを表現した優雅な音楽が二人を包み込む。

八重が右足を引き、膝を曲げてお辞儀をすれば、光太郎も会釈をしながら八重の右手にキスを落とした。
ただそれだけで楽団が奏でる音色も、ダンスホールを照らすシャンデリアも、いっそう華やぐような錯覚に陥ったのは二人だけではないだろう。

川の源流のように静かな音から始まり、次第に下流へ辿っていくがごとく盛り上がりを見せる雄大なワルツ。

八重を包み込むように抱き寄せ、“美しく青きドナウ”の調べに乗ってクルクルと回る光太郎は驚くほどダンスに慣れていた。


「まぁ、あの二人を御覧なさい。まるで西洋絵画からそのまま飛び出してきたよう」

「まさに光臣様のお若い頃に生き写しね」


感嘆と羨望が、ダンスホールの中央で踊る二人に注がれる。

八重は光太郎のダンスの腕前に驚いていた。
力強い腕でしっかりと抱いてくれているから、自分はただ身をゆだねるだけでいい。
聞こえるままに美しい旋律に身体を揺らし、支えてくれる男性のことを見つめるだけで自然とステップが生まれていく。

こんな感覚は、英国でも体験したことがなかった。







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