【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「お初にお目にかかります、綾子様」
握手のために軽く差し出された綾子の手を、緩く肘を伸ばした状態で握った八重。
そのまま握手と同時に右足を左足の後ろに引き、ゆっくりと膝を曲げてお辞儀をする。
「───まあ・・・!」
それはまさしく、英国で高位の人に尊敬の念を表す意味を持つ、Curtsy。
噂に聞いたことはあっても、実際に見るのは初めてだった綾子は感心したように声を上げた。
八重の仕草を見ていた欧羅巴人も懐かしそうに目を細め、日本人は物珍しそうに呆けている。
「さすが・・・英国で育ったというだけあるわね」
「恐れ入ります」
綾子は取り巻きの婦人に二言三言、小声で何かを指示してから、改めて八重を見て微笑んだ。
「今日は楽しんでいってくださいね、八重さん」
「ありがとうございます、綾子様」
とりあえず主催者への挨拶が終わり、ホッと胸を撫でおろす。
緊張していたのは光太郎も同じようで、左胸を押さえてあからさまに“ふぅー”と息を吐いていた。
「あのオバサン、とにかく怖ェんだ。あの人に睨まれたら最後、大隈侯に抹殺されるって赤葦が言ってた」
「シッ! 光太郎さん、聞こえますよ」
光太郎の声はただでさえ大きいから、陰口が綾子の耳に入ったら大変だ。
幸いにも綾子は他の賓客と話し始めていたため、気づいていないようだった。
さて、次は誰に挨拶するのだろうと思っていると、グイッと手を引っ張られる。
「踊ろう、八重!」
「光太郎さん?!」
サロン・オーケストラが奏でているのは、ウィンナ・ワルツでも有名な“美しく青きドナウ”。
テンポが速く日本人にとっては難しいのか、ホールで踊っているのは二組の外国人カップルだけだった。
「ほら、来いよ」
光太郎は臆することなくその中央に入ると、満面の笑みで八重に向かって白い手袋をはめた手を差し出してきた。