【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
八重はスゥッと息を深く吸い込んだ。
そして、思い出す。
サロン・オーケストラが奏でる音楽、
着飾った紳士淑女達の談笑。
「Debutante ball・・・」
英国の貴族の令嬢は、適切な年齢になると真っ白なドレスと手袋、そして髪飾りをつけてデビュタント・ボールと呼ばれる舞踏会に出席する。
そこで女王陛下に謁見をして、正式に社交界に入ることが許されるのだ。
「東洋人の小娘が、身分の高い令嬢達に混じって女王陛下の前でお辞儀をする・・・英国人にとってそれほど滑稽で侮辱的なことはありませんでした」
それでも八重はデビュタント・ボールで完璧なクイーンズイングリッシュを使い、ヴィクトリア女王の前で美しいCurtsy(お辞儀)を見せた。
その姿は貴族達に驚きを与え、東洋の小さな貴族の令嬢は彼らに認めてもらうことができた。
「だから私は大丈夫でございます」
バッキンガム宮殿で開かれるデビュタント・ボールと、鹿鳴館で開かれる舞踏会では規模がまるで違うが、それでも八重にとっては紛れもなく“社交界デビュー”の場。
「けっして光太郎さんに恥をかかせません」
「八重・・・」
白薔薇のような気品と強さを感じさせる八重の横顔に、光太郎の口元にも笑みが浮かぶ。
「・・・じゃあ、さっそく手強い方々と話すことになるけれど大丈夫だな?」
「はい」
二人の先にはこの夜会の主催者である、大隈重信侯と綾子夫人が来賓と談笑していた。
光太郎はキュッと姿勢を正してから、二人のもとへ歩み寄る。
「大隈閣下、綾子様。木兎光臣の息子、光太郎でございます。今宵は御招きいただきありがとうございました」
白髪頭の大隈は光太郎を一瞥しただけだったが、着物姿の綾子は挨拶をした光太郎に会釈を返した。
「これはこれは、木兎伯爵。そちらの綺麗な御婦人はどなた?」
「こちらは木兎貴光の娘、八重でございます」
光太郎が紹介すると、綾子は興味深そうに八重に細い目を向けてくる。
「まぁ、貴光さんの娘さん?」
綾子が貴光の名前を出した頃には、出席者達の注目が肌で感じられるほどこちらに集まっていた。