【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
鹿鳴館───
明治政府の欧化政策によって建設された、煉瓦造りの二階建て洋館。
そこでは、日本が文明国であることを誇示するために、政府の高官達が諸外国から賓客や商人を招き、夜な夜な盛大な夜会が開かれていた。
午後七時、八重は馬車から降りると、英国人建築家が設計したという迎賓館を見上げた。
すでに舞踏会は始まっているらしく、賑やかな音楽が外まで漏れている。
「八重、行くぞ」
八重が頷いて光太郎の右腕をとった瞬間、エントランス前に群がっていた新聞記者達が、ギラリと光る目を二人に向けてきた。
“おい、最近爵位を継いだ木兎伯爵だぞ!”
“隣の御婦人は見たことがないな。ご婚約の話は出ていたか?!”
政府の高官や貴顕紳士らが妻や令嬢を連れ立ち、国民の血税で煌びやかな舞踏会を開くとあれば、庶民達が関心や反感を持たないはずがない。
夜会のある日は特に、鹿鳴館の前に多数の記者が集まった。
中でも、木兎家の急な家督相続については、つい最近巷を騒がせたばかり。
渦中の光太郎は注目の的だし、その彼が見知らぬ令嬢を連れているとあれば、明日の新聞に大きく取り上げられることは必至だった。
「大丈夫だ、八重。お前は俺のそばから離れるなよ」
光太郎は背筋を伸ばし、なるべく八重が記者達の好奇な目にさらされないよう、身を盾にしながら言った。
しかし、八重は軽く微笑んで返す。
「ご心配には及びません。私はもっと多くの好奇と侮蔑の目に晒されたことがございます」
「え?」
光太郎は少し驚いたような顔で八重を見つめたが、その先の言葉を聞く前に鹿鳴館のドアが開かれる。
すると、青銅のシャンデリアが眩く光る豪華なホールが、二人の視界に勢いよく飛び込んできた。