【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「八重、ちょっとそばに来て」
「はい、光太郎さん」
首を傾げながら言われた通りに光太郎のそばに行くと、使用人に持って来させた小さな箱を差し出された。
「八重が英国で社交界デビューをした日、貴光殿は八重に香水をプレゼントしたんだろ?」
「は、はい、そうです」
一瞬、何故そのことを知っているのかと驚いたが、すぐにニコリと笑っている京香が目に入り、彼女が光太郎に伝えてくれたのだと悟る。
「なら、今日は八重が日本で初めて社交界に出る日。木兎家当主として、俺からはこれを贈る!」
小箱から出てきたのは、手の平に収まる大きさの香水瓶。
中には琥珀色の液体が入っており、瓶には英字で“ROGER&GALLET ”とラベルが貼られている。
「八重は白薔薇の香りが好きだと聞いていたけれど、俺はこっちの方がお前に似合うんじゃないかと思って選んだ」
それは甘く芳醇なヘリオトロープの香りだった。
仏蘭西で生まれた香水で、英国貴族たちの間でも親しまれている、上等な輸入品だ。
「白薔薇じゃないけれど、受け取ってもらえるかな・・・?」
光太郎は少し不安そうに眉尻を下げていたが、八重はまったく逆の想いだった。
「光太郎さんが私のために選んでくださった香り。大切にいたします」
手袋を少しずらして手首を出せば、光太郎は嬉しそうに香水をつけてくれる。
すると、フワリと白薔薇とは違う甘い香りが辺りに漂い始めた。
「うん、やっぱこの香りはお前に似合ってるよ、八重」
「ありがとうございます」
白薔薇の香水が欲しいと言っていた八重だったが、その表情を見る限りは本当にヘリオトロープを気に入ったようだ。
そんな八重と光太郎の様子を見守っていた赤葦と京香は、誰にも気づかれないようサッと互いに目配せをした。
───旦那様が選んだ香水を気に入ってもらえて良かった。
白薔薇の香りは・・・八重様を穢してしまう・・・
「京治・・・ありがとう」
京香は心から安堵しながら、赤葦だけに聞こえるように囁いた。