【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
感嘆を漏らす光太郎の隣では、赤葦がまるで上瞼がひきつったように眼を大きく開き、八重を見つめていた。
「どうした、赤葦。八重の晴れ姿に言葉も無いのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
相変わらずその瞳には感情が込められていないが、磁石で引き寄せられているかのごとく赤葦の目は八重の一挙一動に引き付けられている。
「お前、八重に見惚れすぎだろ」
あまりに言葉を発さないので光太郎がからかうような口調で言うと、赤葦はようやく忘れていた瞬きを取り戻し、コクリと頷いた。
「・・・はい、忘我の境に立っていました」
その言葉にクスリと笑ったのは、ちょうど階段を降り終えた八重だった。
「赤葦は“馬子にも衣装”とでも言いたいのかしら?」
そう言って絹の手袋をはめた右手を差し出す。
すると赤葦はその手を下から取り、八重の目を真っ直ぐと見た。
「ご冗談を。貴方を馬子と呼ぼうにも、貴方の血がそれを許しません」
いつもなら熱の無い瞳だが、この時ばかりは僅かに敬慕の情が浮かぶ。
「貴方がどれだけ高貴な御方か、いま一度、認識し直していたところでございます」
身体を屈めて八重の手の甲に唇を寄せ、数秒の間を置いて八重の手の温もりを感じてから口づける。
美しい令嬢の手にキスをする家令。
その姿はまるでおとぎ話の世界のようで、どこからともなく溜息が聞こえてきた。
「ずるいぞ、赤葦! 俺より先に八重にキスをするなんて」
「申し訳ございません、旦那様」
しかし、光太郎の嫉妬をシレッと受け流す頃には、すでにいつもの赤葦に戻っていた。
「旦那様、それよりも八重様にお渡しするものがあったのでは?」
「あ、そうだ。忘れていた」
赤葦に促され、光太郎は何かを思い出したようにポンッと手を打つ。