【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
息を飲む───その言葉はまさにこの状態を指すのだろう。
光太郎と赤葦の瞳は一瞬にして、階上に立つ一輪の“白薔薇”に釘付けとなった。
細いウェストを際立たせるため、臀部後ろに大きく膨らみをもたせたバッスルスタイルのドレス。
金糸刺繍で薔薇の花模様を折りだしたオフホワイトの生地を基調とし、切り返し部分は若草色の生地。
衿ぐりと前開き部分、そして袖口には絹サテンの豪華なリボン飾りがあしらわれている。
───白薔薇。
美の女神アフロディーテが海から誕生した際、同等に美しいものとして大地が創造した花。
Innocence(純潔)とReverence(心からの尊敬)の花言葉を持つそれは、まさに八重を形容するに相応しい。
「八重・・・お前・・・」
光太郎が驚くのも無理はなかった。
木兎家に来た日から、八重はいつもどこか自信が無さげだった。
家の者に気を遣い、特に赤葦に対しては怯えているようにすら見えた。
だが・・・今はどうだ。
「すごいな・・・」
光太郎が無意識のうちに漏らした感嘆の言葉、それに尽きる。
いくら西洋化が進んだとはいえ、日本の華族の女性は生活のほぼ大半を和装で過ごしている。
着慣れないドレスを無理やり着て、踵が高く、つま先が細い靴を履けば、歩くことさえままならないのが普通だ。
夜会に出席する女性達は皆、カクカクと不自然な歩き方をし、一曲踊っただけで悲鳴を上げながら別室に下がってしまう。
しかし、八重は見るからに違っていた。
階段をゆっくりと降りる令嬢の右手は、かろうじて足首が見えるようドレスの裾を右斜め上に引き上げている。
普通の女性ならつい両手で裾を持ってしまいがちだが、それは英国の上流階級では“低俗”とされていた。
一流のレディに苦痛などない。
微笑みを絶やさず、視線も決して落とさない。
「光太郎さん、お待たせして申し訳ございません」
とはいえ決して焦らず、階段をゆっくりと一段一段降りてくる。
その圧倒的な気品は、本場の貴族社会で育った八重だからこそ漂わせることができるものだった。
その堂々たる姿や、今宵、鹿鳴館に集まる全ての女性を凌駕するだろう。