【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
同時刻。
光太郎と赤葦は屋敷のメインエントランスホールで八重を待っていた。
外にはすでに馬車も待機している。
「・・・もう二度とあの仕立て屋は使いません」
赤葦は先ほどからかなり立腹した様子で、いつも以上に目尻を上げていた。
というのも、懇意にしている仕立て屋が急病で、別の仕立て屋に光太郎の礼服を頼んだところ、完成したのがつい先ほどだったからだ。
「もういいだろ、赤葦。いつもの仕立て屋が腰を悪くしたんだから仕方ない」
「いいえ、よくありません! 少し縫合が甘いところもあります」
「見えない所だから誰も気にしないよ」
光太郎がのん気にそう言ったのが悪かったのか、赤葦の苛立ちの矛先が変わる。
「そもそもなぜ、前回の夜会からまた身長が伸びていらっしゃったのですか?! わずか一月で半寸も!」
「え、俺のせい?!」
「おかげで仕立て直さなければなくなったではないですか。ただでさえ、八重様のドレスの準備もあったというのに・・・」
「別に俺は前の礼服でも良かったんだけど・・・ちょっと腕が短いかな、ぐらいだったし」
赤葦は“そういう問題ではない”と言いたげに、ギロリと光太郎を睨みつけた。
サイズの合わない礼服で夜会に行けば、“あの伯爵家は服をこしらえる余裕もないのか”と陰口を叩かれかねない。
赤葦は溜息を吐きながら、ばっちりと支度の整っている光太郎を見た。
金ボタンがアクセントの上等な黒い燕尾服に、真っ白な手袋。
いつもは逆立てている髪をきちんと整えて後ろに撫で上げたことで、さらに際立った華やかな顔立ち。
礼装の光太郎は、男ながらに“社交界の華”と呼ばれていた在りし日の光臣と貴光に勝るとも劣らないだろう。
そう思って、誇らしげに小さく微笑む。
と、その時だった。
「八重様のお仕度が整いました」
待ちに待った女中の報告に、光太郎と赤葦は同時に赤絨毯が敷かれた階段を見上げた。