【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「ありがとう、京香さん」
八重は少し安心をしていた。
屋敷に日美子の遺品が残っていないのは、家憲に背くことが生前にあったからではないか、木兎家の名を穢す死だったのではないか・・・そんな不安があった。
「日美子様がどのような御方だったか・・・よく分かったわ」
でも、光臣や光太郎だけでなく、使用人からも深く愛されていたことが分かった。
やはり赤葦の言う通り、日美子が不慮の事故で亡くなったことがこの家に暗い影を落としているのだ。
「ごめんなさいね、つらかったでしょう。でも話してくれてありがとう」
気づけば、もう夜会に行く時刻となっている。
準備は整ったし、日美子の人柄を知れて胸につかえているものが一つ無くなった。
「さぁ、光太郎さんが待っている」
今、木兎家直系の血を引く女性は八重、ただ一人。
近代化が著しい明治の世を木兎家が生き抜くには、時代の権力者、異国の大使や商人達との交流が不可欠になる。
そして自分の役目は木兎家の女主人として彼らに顔と名前を覚えてもらい、社交界で認められることだ。
「私が英国で生まれ、家庭教師に厳しく訓練されたのはこの時のためだったのかもしれないわね」
将来の伴侶探しのために参列するだけの華族の令嬢達とは違う。
生まれ育った環境も、今置かれている立場も。
「日美子様に代わる光・・・私は貴方達のためにも、それになれるよう頑張るから」
若くして爵位を継いだ光太郎の力となり、一緒に木兎家を盛り立てていく。
それができたら、赤葦も少しは認めてくれるかもしれない。
「────行きましょう」
静かに覚悟を決めた八重は、誰が見ても凛とした美しさを携えていた。