【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「先代の奥様、日美子様はその名のごとく、太陽のような御方でした」
そこにいるだけで場の空気が華やぎ、目で追わずにはいられない人。
洋服の着こなしはまるで巴里の貴婦人で、実際に社交界に出れば欧羅巴人も見惚れる顔立ちをしていた。
「でも奥様の魅力はそれだけではございません。あれだけの容姿とインテリジェンスをお持ちでありながら、幼い少女のようなところもございました」
京香はまだ見習い女中だった頃を思い出し、懐かしそうに瞳を揺らす。
「ある日、お屋敷で使用人に振る舞われたお菓子を食べ損ねたと、日美子様がいじけていらっしゃいました」
“光太郎は赤葦にこっそりもらって食べたというのよ。私だってどんな高級菓子より羊羹の方が好きなのに”
そう言って頬を膨らませるものだから、京香は父に叱られること覚悟で日美子に使用人達が食べ残した羊羹を渡した。
とはいっても、当時は木兎家の家令を務めていた父も、駄々をこねる光太郎に負けて羊羹を与えたのだから、知られても咎められることは無かっただろうが。
“ありがとう、京香! 半分こにしましょうね、旦那様と赤葦には内緒よ”
悪戯っ子のような笑顔の日美子と分け合った羊羹の切れ端。
納戸に隠れて食べたあの味は、今も忘れない。
「日美子様にお仕えできたことは私の誇りであり、何よりの自慢です」
京香の言葉で故人を思い出したのか、その場にいた女中達もすっかりと黙り込んでしまっていた。
中にはすすり泣いている者もいる。
「八重様。私は日美子様へと同様の気持ちで八重様にお仕えしております」
「京香さん・・・」
日美子が亡くなったあの日、木兎家は一つの光を失った。
「私達にとって八重様は、日美子様に代わる光でございます」
どうか・・・木兎家を救ってください、八重様。
それができるのは貴方様だけでございます。
最後のは、言葉にできない京香の願いだった。