【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
“やはり御二人が不義のご関係にあるという噂は本当なのかしらね”
なるべく考えないようにしているつもりだが、あの噂を耳にしてから赤葦と京香が一緒にいる姿を見ると、二人は恋人同士なのではないかという疑いが頭をよぎってしまう。
しかし、職務中の二人は徹底して家令と家政婦長であり、姉弟としての他愛無い私語すらない。
主からの呼び出しには昼夜問わず応じる生活の赤葦と京香が、隠れて逢引きしているとは到底思えなかった。
「・・・八重様?」
赤葦家の人間が問題を起こせば、木兎家の名に傷がつく。
そんなことは二人も重々承知のはずで、あえて自ら危険な関係を選んだりはしないだろう。
確証も無いのに口出しをするわけにいかないし、何より、噂に左右されるなんて品位に欠ける行動だ。
「八重様、やはりコルセットがきついのでしょうか? 上の空のようですが・・・」
低俗な噂のことなど忘れよう。
今はそれよりも大事なことがあるはず。
「ねぇ、夜会の前に聞きたいことがあるの」
「はい、何でしょう?」
八重が噂を耳にしたことを知らない京香は、首を傾げながら微笑んだ。
「赤葦には止められているのだけど・・・日美子様がどのようなお人柄だったかを知りたいの」
赤葦には日美子の死を蒸し返すようなことはするなと言われている。
彼が危惧していた通り、それまで柔和だった京香の表情が、一瞬にして強張った。
「日美子様・・・ですか?」
「夜会で日美子様の話題が出た時に、私だけ知らん顔をするわけにはいかないと思って・・・」
「・・・・・・・・・」
京香は腹の前で手の平同士を擦りあわせながら、少し考え込んでいた。
ここには八重と京香以外にも数名の女中がいる。
彼女達にはまだ、日美子が死んだショックが残っているかもしれない。
「───分かりました、八重様」
心を決めたのか、京香はスッと頭を下げた。
「申し訳ございません、もっと早くにお話すべきでした」
ここまで屋敷に日美子の遺品が無ければ、誰だって不思議に思うもの。
噂話で溢れる夜会に参加すれば嫌でも話題に上がるだろうし、何より八重には“知る権利”がある。