【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
「八重様、梟谷の御屋敷に到着いたしました」
かつて木兎家が治めていた地名にちなんで、梟谷と名付けられた地区。
その中心に建つのは、英国人の建築家に造らせたというルネサンス様式の大屋敷だった。
「いらっしゃいませ、八重様」
闇路が馬車の扉を開けた途端、八重を歓迎する声が響く。
驚いて外を見ると、三十人を超える使用人が雨の中、玄関から通りまで二列に並び、深々と頭を下げていた。
その光景に圧倒され、八重が思わず身を後ろに引いてしまったのも無理はない。
「どうなされました?」
「闇路さん・・・どうしてこんなに大勢の人が出迎えているの?」
木兎家は有数の大名華族。
八重を直接出迎えることが許されているのは表方で働く上級使用人だけで、さらに裏方には馭者や車夫、料理番、水仕女などが控えている。
「木兎家直系の御血筋である御令嬢のご到着ですから当然でございます」
闇路が口にした“木兎家直系の血筋”という言葉には、それ以上の意味が含まれていたが、豪邸と使用人の多さに絶句している八重がその事に気が付くはずもなかった。
「さあ、皆が待ちかねています。どうぞ」
促されるようにして馬車のタラップに足をかけると、使用人達の最前列で黒い礼服を着た高身長の男が礼儀正しく頭を下げているのが目に入った。
「ようこそ、八重様。私は家令の赤葦京治と申します」
「家令・・・?」
“家令”。
主人に代わって家務を取り仕切るHouse Stewardのことで、使用人の統括者だ。
つまり、執事である闇路よりも立場は上ということになる。
年齢は八重とさほど変わらなそうなのに・・・
「旦那様に代わりまして、八重様の“御帰宅”を心より歓迎申し上げます」
顔を上げた赤葦と八重の視線がぶつかる。
その瞬間、雨露が背中に落ちたわけではないのに、八重はゾクリとした感覚を覚えた。
吊り気味の涼しげな目。
スッと伸びた鼻筋や小さな口のせいで古風な顔立ちの印象を与えるが、高身長ゆえに華やかさも併せ持つ。
綺麗な男だと思った。
だけど同時に氷のような男・・・というのが八重の赤葦に対する第一印象だった。