【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
「八重様・・・当家は喪中ですので、そのような歌は」
執事が眉をひそめるのも無理はない。
木兎家を襲った“痛ましい事故”からまだ1年と経っていないのだ。
「喪中・・・そうだったわ、ごめんなさい」
「いえいえ、お嬢様に頭を下げさせたと知られたら、私が旦那様に叱られてしまいます」
闇路はニコリと笑っていたが、八重は心に霧がかかるのを覚えた。
“旦那様”とは、木兎家の現当主のこと。
彼が八重の到着を心待ちにしている?
そんなはずはない。
英国生まれの孤児を、亡き母の実家でさえ厄介者にしていたというのに。
父の実家が温かく受け入れてくれようはずもない。
「ねぇ、闇路さん。木兎家はどうして私を引き取る気になどなったの」
「さぁ、私はただの使用人でございます故、詳しいことは・・・」
それは嘘だ、と八重は思った。
闇路は先代から仕える執事、木兎家の諸事を知らないわけがない。
「・・・親を亡くした鳥を憐れに思ったのかしらね」
Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow, With my bow and arrow, I killed Cock Robin.
───どうせ殺すなら、一緒に殺してくれれば良かったのに。
「八重様? どうかされましたか?」
「長旅で少し疲れているだけです」
私にはもう他に帰る場所がない。
もし木兎家がそれになってくれるというのなら、従うしかないだろう。
英国はとにかく雨の多い国だった。
太陽が出ている日の方が少ないのではないかと思うほど、空は年中灰色の雲で覆われていた。
だからこそ、陽の光が差し込む日は、とても美しい世界が広がっていた。
秋霖が明けたら・・・
木兎家はどうなのだろう。
輝かしい光は差し込むのだろうか。
寂しさと不安を胸に、八重がもう一度窓の向こうに目を向けたその時。
大型四輪馬車がガタンと音を立てて止まった。