【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「日美子様がお亡くなりになったのが、この屋敷だからです」
「・・・え・・・?」
「日美子様は東棟の三階から転落し、命を落とされました」
それは初めて聞くことだった。
不慮の事故だとは知っていたものの、外出先での出来事だとばかり思っていた。
東棟といえば、サロンルームなどがある応接用の棟で、三階に行ったことはないがあまり使われていないはずだ。
何故そんな人気のない場所から・・・
いや、使用されなくなったのは、日美子の転落があってからなのか?
そして、赤葦はさらに衝撃的な言葉を続ける。
「屋敷の中には日美子様は自裁された、と考える者もいます」
その瞬間、石油ランプの光が風もないのに二度点滅した。
胸を鈍った槍で突かれたような衝撃が八重を襲う。
自裁・・・日美子は自ら命を絶った、というのか・・・?
「赤葦・・・何を言っているの・・・? 伯母様が自殺なされた・・・?」
すると赤葦は八重には分からないように唇を噛んだ。
“───京治・・・私を許して・・・”
赤葦が最後に見た日美子は、泣いていた。
何故・・・何故・・・八重は今、ここにいる?
日美子の死がなければ、この令嬢が木兎家に戻ってくることなど無かった。
「・・・・・・・・・・・・」
いや・・・違う。
運命の歯車が狂ってしまったのは、もっと“前”からだ。
「八重様、日美子様の死は紛れもなく“事故”によるものです。自裁というのは、お亡くなりになった状況から出た噂話に過ぎません」
赤葦は感情を完全に殺しながら、先ほどよりもはっきりとした口調で言い切った。
「ただ、使用人達の間にいまだ動揺が残っているのも事実・・・どうか、日美子様の死を蒸し返すようなことだけはなさらないでください」
ここまでの平穏を取り戻すのにどれだけ苦労したか。
一時の興味でそれを水の泡にされたら困る。
「・・・・・・・・・」
八重は驚きのあまり、どこからも声を発することができなかった。
頭の中でバラバラに散乱した赤葦の言葉を一つに繋ぎ合わせることだけで精一杯。
完全に陽が落ちてランプだけの灯りとなった書斎で、八重は赤葦の無言の重圧に押されるようにただ頷くことしかできないでいた。