【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「聞きたいこととは何でしょうか?」
自分から切り出しておきながら、肝心の質問を口にしない八重に少し苛立ったのか。
赤葦はコツコツと革靴の音を鳴らし、机を挟んで八重の真正面に立った。
ここまできたら、もう聞くしかない。
「この屋敷にはどうして、日美子様の御形見が残っていないの?」
茜色の窓から差し込む光が、赤葦の顔を沈んだ赤色に照らした。
それによって出来た濃い陰影は、彼の表情を隠してしまう。
「写真や遺品は伯父様が全て別邸に持っていってしまわれたそうだし、使用人達は日美子様について語ることすら避けているみたい」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、今度の夜会で日美子様について聞かれるかもしれない。そんな時、お顔も、お人柄も分かりませんと答えるわけにはいかないでしょう」
赤葦はすぐに八重の質問に答えなかった。
言葉を選んでいるようにも見えるし、その質問をされたことに腹を立てているようにも見える。
ただ、八重の主張は当然のものだし、光太郎が女性をエスコートして夜会に出るのは初めてのことだ。
在りし日の光臣と日美子を懐かしんで、話題を振ってくる賓客もいるだろう。
───さて・・・なんと答える?
「先代が遺品を全て別邸に持っていかれたのは、少しでも日美子様の面影と共にありたいと願われたからです」
“京治、この屋敷に日美子の遺品を何一つ残すな”
自分のいない屋敷の仏壇に日美子の位牌を置くことすら嫌った光臣。
彼が残した命令に従い、屋敷の至るところにある日美子が集めた壺や絵画などの装飾品も、赤葦が少しずつ新しいものに入れ替えている。
「そして、使用人達が日美子様の話題を避けているのは・・・」
赤葦は一呼吸の間を置いて、茜色から群青色に変わっていく空の方に目を向けた。