【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「集中を欠いているご様子ですが、いかがなされたのですか」
夕暮れ時の書斎。
室内の石油ランプを灯すか迷うほどの薄暗さの中、八重は机に向かっていた。
読んでいるのは木兎家文書だが、先ほどから頁をめくる手がまったく動いておらず、そばで監視していた赤葦の先ほどの質問に至る。
「・・・・・・・・・・・・」
「八重様には木兎家がどういった御家柄かを知っていただかければなりません。旧領地の財政や家督、吉事、仏事など、当家の家政を一通りご理解いただく必要がございます」
とはいえ、目の前に大量の書物を積み上げられたら気が滅入るというもの。
しかも八重は毛筆で書かれた文書を読むことに慣れていないから、たった一行の内容を理解するにもかなりの時間がかかる。
赤葦は小さく溜息をついてから、石油ランプを灯した。
油を染み込ませた芯にポッと火がつくと、ねじを捻って明るさを調整する。
小さな明かりが八重の横顔を不安げに照らすと、家令の眉間にシワが寄った。
「・・・もしお疲れならば、今日はもうやめにしましょう」
内心、“この程度の文書も読めないのか”と軽蔑しているのだろう。
いつにも増して刺々しい口調の赤葦と二人きりのこの空間は、果てしなく重く、息がつまりそうだ。
ただ、“集中を欠いている”というのも図星だった。
「赤葦、聞きたいことがある」
八重の言葉に、本を棚に戻していた赤葦の手が止まる。
「・・・はい、何でしょう?」
石油ランプの小さな明かりが、今度は赤葦の横顔を照らした。
二人きりの書斎は、先々代と光臣が残した膨大な書物が保管されている。
その一つ一つに詰まっている、木兎家の歴史。
その全てを光太郎が背負い、その光太郎を赤葦が支えている。